ぶらり、大山 〜大山の不思議と素敵を語る〜 大山開山1300年祭 特別コラム

[第23回]大山大陸 ~日本人を育てた風景~

1、大山大陸(三平山山頂付近).png

『大山大陸』と名付けたくなるような風景が大山の南麓地域(奥大山)には広がっています。東・西・北麓のように近くに海が見えませんが、それだけに広大な大陸を思わせるダイナミックな風景を南麓の各所で楽しむことができます。上の写真は、鳥取、岡山県境の三平山(みひらやま:標高1010m)の山頂付近からのショット。5月、萌えだしたばかりの新録が輝く美しい季節です。
説明するまでもないですが、左から大山(南壁)、烏ヶ山(からすがせん)、そして象山、擬宝珠山、皆ヶ山(みながせん)、二俣山(ふたまたやま)、そして蒜山三座へと続いていきます。ボリューム感のある風景、まさに"大陸"を彷彿させます。ちなみに、この写真の左側(写っていませんが)には、中海・宍道湖の古代出雲のエリアを遠くに見ることができます。右側に目をやると、広大な蒜山高原を眼下に見ることができます。一説によると前者は「根の国」、後者は「高天原」とも…。古代の(古事記)視点ではありますが、この"死"と"生"の対峙する世界を同時に視認できる場所は他にはないでしょうね。

2、蒜山高原 自転車道から.png

蒜山サイクリングロードは大人気のコースで、2010年に日経新聞「NIKKEIプラス1」の「おすすめサイクリングコース」で9位にランキングしました。写真はそんなサイクリングロードからの晩秋ショット。左端の遠方が大山、右端は上蒜山です。広大なこの盆地は、元々は湖。大山の約35万年前の噴火によって西側がせき止められ、蒜山原湖が誕生したということ。5万年間は珪藻が繁茂する湖でしたが、時代の経過とともに旭川水系の浸食などで干上がって高原になりました。そんな歴史の高原ですので珪藻土の最も厚いところは約100mに達するともいわれています。「大山大陸」の成り立ちの一端をここに見ることができますね。

3、大山大陸の中心部・鬼女台から.png

蒜山高原と大山を繋ぐ道(旧蒜山大山スカイライン:大山パークウェイ)は人気のドライビングコースです。開通したのは大阪万博が開催された昭和45年(1970年)ということで、間もなく開通50年を迎えます。写真はこの道の絶景ポイント・鬼女台(きめんだい)からの大山・烏ヶ山の落葉シーズンのショットです。緑から黄や紅に姿を変えた山裾が、幹と枝だけで構成された薄い茶色の姿に変わりました。ここは大山大陸の中心部的位置にあります。写真は北側を撮っていますが、南側には広大な蒜山高原が広がっています。実は、ここの風景を大絶賛した世界的な風景写真家がいます。その名は白川義員(しらかわよしかず)さん。作品集「永遠の日本」の中の『日本人を育てた風景』で、この鬼女台からの大山~蒜山高原の風景を特にフューチャーして紹介されました。2013年正月にはNHK総合テレビでドキュメンタリー番組『白川義員 日本人を育てた風景を撮る(ナレーション、石坂浩二さん)』も放映され、ここでの撮影風景と想いを語るシーンが紹介され話題になりました。ちなみに、凄い呼称の「鬼女(台)」とは…。烏ヶ山の南斜面をじっと見るとわかるらしい。

4、烏ヶ山山頂から.png

奥大山のランドマーク的存在の峰、烏ヶ山(標高1448m)山頂の大岩から大山方面を撮ったものです。南東方向の珍しい大山の山容です。遠くには「根の国」も見えています。ちなみに、烏ヶ山は、遠くから見ると烏が羽を広げたような姿に見えることからこの名が付いたということ。第20回のコラムでも紹介させていただきましたが、不動明王の羂索を握りしめる左手にも見えたりします。それぞれに信仰があっての由来だと考えられますね。この奥大山エリア(江府町)は宇多田ヒカルさん出演のコマーシャル・サントリー天然水の「水の山行ってきた奥大山編」の舞台にもなりました。彼女が軽やかに唄う「大空で抱きしめて」にはググっと惹かれました。

5、貝田地区から望むパノラマ.png

近年は「奥大山」という表現が定着しましたが、かつては南大山、裏大山などと云われることがありました。それぞれに、意味、メッセージがありますが、"奥"という表現が、"奥深さ"を言い表しているようで、時代が求めているものと合致していたのかもしれません。そんな大山大陸の中心的位置にある奥大山エリアは、実は南斜面で太陽の光に恵まれています。山陰は大抵が北斜面ですが、このエリアだけは違います。この江府町貝田地区など奥大山の米は全国的な食味コンテストで毎年のように優秀賞をとるほどです。豊かな大地や清冽な水、生産者の努力など様々な理由はありますが、なにより南側を向いているということは大きなポイントでしょうね。植物にとって太陽光(入射角の影響、日照時間)は重要ですから。それにしても、この貝田の里風景も素晴らしい。まさに、奥大山の豊かさを育んだ唯一無二の環境であり、風景です。

6、江尾の街と大山.png

貝田を下ると、そこは江府町江尾の街。日野川沿いの谷でもあるので、大山は見えないのではと思いがちですが、実は見事な大山南壁と烏ヶ山を目前に臨むことができます。額縁のように風景が縁取られることもあってか、大山が大きく感じます。特に雪のかぶったこの時期は、南から光が当たり眩しいくらいです。北側のそれとは大きく違いますね。光に包まれた大山大陸ぐるり旅、いかがでしょうか。この春、そして夏、秋、奥大山でしか味わえない『大山大陸~日本人を育てた風景~』を存分に楽しみたいものです。

最後に、最近はドローンによる撮影が普及し、空撮が珍しくなくなりましたが、さすがにこの位置からのドローン撮影は難しいでしょう。10年前に宍道湖から飛び立った水上飛行機から撮影した大山南壁と裾にひろがるブナを中心とした森です。この環境、風景…大切にしたいものです。

7、大山空撮 南麓は広大なブナの森.png

BUNAX

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